本日開店

創業2002年か2003年、平民金子の元祖はてなダイアリー日記です。

とびおりさんと僕

近所の駅が、なんだか報道陣やら群集やら、ガッチャガッチャと騒がしいな、と思ったある日のこと、へえ、何があったんですか?と騒動を熱心に見つめるオッサン氏に聞いてみたれば、あのねえじさつ、じさつだよ、じさつ、と三度も同じ事を教えてくれた。これはテレビやおそらく新聞にも大きく出ていた事件なんだろうと思うので、皆さん知ってる人も多いはず。某商業施設屋上から飛び降りて、下を歩いている人まで巻き添えにしちゃって……という話。あのニュースを、あとでネットで読みながら、とびおりた女性は、たしか普通入れない屋上までの階段、鍵をぶっこわして上にあがった、とかそんなんだった気がするんだけど(ウロおぼえなので間違ってたらすんません)、その、目の前の鍵をぶっこわすぜ、ていう動的(?)な意思と、とびおりる前にはやっぱちゃんと靴ぬぐんだ…、ていう静的な意思、みたいなのの対比、つーかなんつーか、あとたしか「屋上に設置された監視カメラの映像には確かに女性の姿が確認された」とかいう文章があったと思うんだけど、その映像をはじめに確認した人、うーん、この人どんな映像を見たんだろうな、とか、そんなこと、ぼんやり思った。映像の中の女性は、まだいきていて、動いてるんだもんな。


さて、あのニュースに関しては当たり前なんだけど、特に自分には語れることもなく、ただ、とびおりじさつ、という事に関しては、ぼくにはなんか、巡り合わせとしか言いようがないような、不思議なご縁があって、この話、ぼくを知ってる人に実際、目の前ですると、たいてい、気味悪がられる、つーか、真顔でひかれてしまうんだけど、ここ数年の間に、ぼくは二年続けて、とびおりじさつの現場に出くわしてしまった事があって、その二回とも、自分が第一発見者として、救急車を呼び、おまわりさんの聴取を受けることになった。その時の話、一度目のやつはぼんやりと、この日記にも書かれてあった。

http://d.hatena.ne.jp/heimin/20041101/p1
http://d.hatena.ne.jp/heimin/20041209

この頃、自分のまわりで、よく人が死んでいた。知らない人から、時々は知ってる人まで。死ぬってなんなんだろうなあ、とか、ぼんやり考えていたんです。とびおりじさつを初めて見かけたその時の、たしか前の年か前の前の年くらいに、当時の職場で、わりと好きだった女が、子供三人残し、部屋で全身きりきざんで死んじゃった、て話があって、あん時もすごくふくざつな気持ちだったんだけど、その話はまた別の機会に、書くかもしれないし、書かないかもしれない。彼女のことに関しては、書く必要なんてないんだけれど、書いておきたい気持ちみたいなのがとてもあって、なんつのか、彼女はとても痛々しかった。痛々しいほどに元気でいつもまわりを明るくさせる、目がとっても大きくてかわいかったなあ。ヤクチューだったんだけどね。て、まあ彼女の話は置いといて、とびおりさんの話。


上に書いてある一度目のとびおりさんは、体がぐにゃっとひんまがって即死だった。あの時の話、いま読み返してみると、ぼくは途中までしか書いてないね。あのあと、死体にキスをした。とか書くとずいぶんロマンチックなんだけど、必死の人工呼吸です。なにやってんだ俺、みたいなあれで、そんなのしたことないのに、心臓マッサージつか、ああいうのやりながら、今から考えりゃどっからどう見ても死んでる女の口に、息ふきこんだ。ありゃなんだったんだ。たぶん頭ん中真っ白だったんだろうな。なあなあ、俺の息、酒くさかっただろ、とか、今ふと思った。おまえがとびおりたあとしばらくして、妹がマンションから出てきて、大変だったんだぞほんと。妹すんごい目、むいて、自分のおでこアスファルトにゴリゴリこすりつけて、髪の毛グシャグシャとむしり出したんだ。「ギイイイイイイイ」とか言ってんの。言葉が出てこないんだよな。あんまりにもギイギイギイギイ言ってっから、俺彼女のカラダ無理矢理地面からひっぺがして、むりやりだきしめて、耳元で大声出してやったんだ。そしたらシュンとなっちゃって、そんで、植え込みに座らせた。いやいや俺、あかの他人なんだけど。まあでもきみは死んじゃったからね。おれの苦労つうかあん時の災難も知るまい。何があったんか知らんが、死ぬってキラクなもんだよな。馬鹿野郎。とかね。今ならもうすこしやさしい言葉をかけてあげれるような気もするけれど。


二度目のとびおりさん。これもたいがいえぐいんだけど、この人はおばさんだった。アスファルトに落下してりゃすぐに死ねるんだけど、この人はマンションの植え込みに落下したんで、ぼくが発見した時は、まだ目ひんむいて、息してた。とびおりじさつって、なんつうのか、すごい音がするんだよ。あの音はほんと、独特なんだよな。で、そん時はぼく、前の年にその音聞いてっから、ああまた誰かとびおりたよ、ってすごく冷静だったのおぼえてる。あ、あの音だなって、すぐにわかった。だからすぐに音のきこえた方のめぼしいマンションまで走って、周囲ぐるぐるさがしたんだけど、誰もいないの。明け方、つうか夜中つうか、4時頃だったかなあ。で、まわり見ても騒いでる人いないし、自分一人だけマンションのまわりウロウロしてる、あれ俺いま不審者っぽいよなあ、なんて思いながら、それでもあの音きこえたしって思って、じっとマンションの前に立ってたら、植え込みの真ん中あたりから、やっぱし、つかなんつうか、うめき声がきこえてきた。そんであわててぼく植え込みの中につっこんでいったんだけど、おれあん時ぞうりだったから、あとで部屋帰ったら、足すんげー切れてて痛かったんだよ。まあそんな事はいいけどね、植え込みの中で、オバハンあおむけになって、目ひらいて、ウーウー言ってんの。ウー……ウー……ウー……ウー……ってずっとそればっか。なんかオバハンの顔色、どす黒い感じになってました。で、とりあえずすぐに救急車呼んだんだけど、救急車って来るまでに5分くらいの間があるのな。


その数分の間のことはすごくよくおぼえている。あんだけの音がしたのに、マンションからも、近所の家からも、誰一人出てこないの。何で?何で?何で?て思いながら、ぼくはオバハンに向かい合って「おばちゃん、俺の声きこえるか?」て聞いた。そしたらオバハン、こっちにゆっくり目をギョロっとむけて、ウー…って言うの。「おばちゃん、いま救急車呼んだったからな」「おばちゃん、救急車すぐ来るから大丈夫や」オバハンはぼくと目を合わせてるんだけど「ウー……ウー……ウー……ウー……」ばっかり言ってて。あん時、なんでか知らんけど、俺の声がなくなったらこのオバハン死んじゃうんじゃないかと思った。だからずっとオバハンに話し続けたの。「おばちゃん、痛いか?なあ、痛いやろ?」「救急車もう来るから、おばちゃん大丈夫やで」「おばちゃん、俺この近くに住んでるよ」「おばちゃん、すごい音したからびっくりしたやないか」「おばちゃん、救急車もう来るで。もう来る。すぐに来るよ」で、ぼくはそのオバハンと、手つないだ。「な、おばちゃん、俺いまからおばちゃんの手にぎったげるからね」「おばちゃん、おばちゃんの手にぎるよ」て言うと、オバハン、やっぱし「ウー……ウー……ウー……ウー……」言いながら、手の指、ピクピク揺らすの。「おばちゃん、手え冷たいなあ。俺の手、あったかいやろ」とかそんな事、ずっと言い続けてるうちに、やっと救急車が来て、オバハン、担架で運ばれていった。最後、おばちゃん、元気なったらうちに遊びに来いよ、とか言った気がします。


ま、長々と、この話には別に結論も何もございません。ただ、二人のとびおりさんと接して思ったんだけど、とびおりじさつってほんとうにつらいと思うよ。だからこれからとびおりさんになろうと思ってる人がもしここ読んでくれてたとしたら、ぼくはあなたにひとつだけアドバイスしたいんだけど、他の方法を考えたほうがいいと思います。生きろとは言わん、死なんでくれ、て有名な映画のセリフがあったっけ。