こんな時だからこそ、というような気分になって、新開地の立ち食い松屋に行き、(こんな時だからこそ)と心の中でつぶやきながらいつもより大きな声で「ざるそば」と注文する。店員さんから即座に「さすがに、まだや」と言われる。「じゃあ天ぷらそばで。山菜と昆布をトッピング」と答える。この切り替えの早さ、おれの頭はまだ死んでいない、と思った。隣の隣の隣の隣くらいの誰かがうどんを受け取って、無言で一万円札を出している。それを見て、もしもこれが裁判で自分が裁判官だったなら、と想像する。立ち食いそば屋で無言で一万円札を出す客は懲役八年。ひとこと丁重にことわった上で出したなら、懲役三年。どちらも執行猶予はつかない。唐辛子を入れすぎて汁を飲む時にむせてしまい咳が出る。唐辛子がノドにひっつく咳は少しの間止まらず、うわ、気いつかうわ……となる。午前中Sさんとすれ違って、「あの、ちょっとブログのことでコメントがあるんやけど」「はい、なんでしょう」「いつもおもしろく読んでるんやけど、総理大臣にさっさと墓に入れとか、そういうきつい言い方はちょっとあれやと思うねん。中学生とかでもよく、簡単に人に向かって死ねとか言うやんか。ああいうのもそうやけどほら、どこで誰に何言われるかわからへんし、もう少しオブラートっていうか、ユーモアを込めた言い方がいいと思う」「……ほんまに申しわけございません……」。2020年になってインターネット日記のコメントを路上でもらう。神戸すごいやんと思った。ゆうちゃんでたこ焼きを買ってハーバーランドへ。そこには、完全に誰もいない空間が広がっていた。用事のある妻と別れ、子供とぬいぐるみを投げ合って遊んでいると、どこからかやって来たベビーカーを押した家族が「すいません…」と声をかけてきた。「はいはい」「ここ、いつもこんなに人がいないんですか?」「いや、今日は今までで一番人がいないですよ」「そうなんですか」「ほんまにやばい感じです。先週までも確かに人は少なかったけど、今日はもう」。いまの状況を説明している自分はどこか上気している、と思う。家族連れと別れ、子供と遊んでいると、上空をヘリコプターが何度も旋回している。次第に存在が気になりだして心がざわつき、ツイッターを「ハーバーランド」で検索してみると、コロナウイルスの関連倒産みたいなニュースで、ルミナス神戸の名前が出ていた。経営破綻。普段通りに停泊しているルミナス神戸の前まで行くと、周辺には誰もおらず、こんな日でも海はきらきらと光っていて、若い女性がひとり、繋留用のボラードに腰をかけて海を見ている。メリケンパークにはけっこう人がいた。いつもより子供たちが多いから、学校が休みになった子供たちや、保育園などの子供たちが遊びに来ているのだろう。ぶらぶらと自転車をこいで、工事用フェンスに囲まれた横溝正史モニュメントの前まで行くと、横に立つ梅の木に花がたくさん咲いているのに今さらのように気づいた。さらに自転車を走らせると公園横の白木蓮の花が咲き始めていた。アイスでも食べよか、とRに。子供を風呂に入れていると「あっこちゃん、雷のにおい」と言われる。