入口でコーヒーを配っていることで有名な、外国の食品やら調味料なんかを売っている店、に行った。目当ての商品を選んでレジに並んでいたのだが、自分の前で会計していた人が購入商品が数点のわりにやたら長くて、何かのカードを出そうとする、やっぱりそれがない、じゃあスマホの何かで払おうとする、操作がよくわからない、みたいな感じで、最初っから現金で買い物していれば数十秒で終わるものが、店も店、客も客、というもたつきでまったく進まなかった。イオンによくいる「だいぶ遅い人」の10倍くらいの破壊力を持った遅さだった。
……ただ、それは別によかった。こちらは急いでなかったし、平和な心だったからである。平和な心の時は「レジが進まないことに何かマイナス感情を持ったって得られるものは何もない」みたいに仙人ぽく思えるから「のんびりしとるのう」くらいのおだやかな気持ちで待っていた。
ようやく私の番が来る。
私が手にしていた商品は瓶モノが3つである。
ここで、入口でコーヒー(略)をよく利用する人ならわかるだろう。
入口でコーヒー(略)では、瓶モノを買うとひとつひとつ例の「ワシャワシャした伸び縮みする紙」で包んでくれるのである。私はアレは資源的にけっこう無駄、店員の手間的に相当無駄だと思っているので基本的には断るようにしている。ところが……
前回入口でコーヒー(略)を利用した時、断るタイミングを逃して瓶モノをワシャワシャした伸び縮する紙で包まれてしまったのだ。ああ、無駄な紙を使わせてしまった、と思って家でそれを剥がし、なんとなくテーブルの上に置いておいた。単に捨て忘れていただけであったが、そのワシャワシャした伸び縮する紙をヒカリさんがいたく気に入った様子であった。びよんびよん伸ばしたりしながら、どこかに行く時にいつも手に持っていたり顔にあててワシャワシャのにおいをかいだりしている。
というような出来事があったことを今日、レジに商品を出した時に思い出した。
思い出すまではいつものように、例のワシャワシャについては資源的にも店員の手間的にも無駄であるから「それ、いりません」と断ろうと思っていたのだが、「袋はお持ちですか?」「はい、持ってます」のやり取りの後で店員がいつものように(例のワシャワシャの入った)引き出しを開けた瞬間にヒカリさんのことを思い出した私は「どうしよ、どうしよ」と考えながらも店員を(「それ、いりません」と)制止せず、1つ目の瓶を包みはじめたタイミングで「すいません、(瓶を)包まなくてもいいのでその紙だけ1枚くれませんか」と言った。今から考えたら、そう言った瞬間の店員の「ピクッ」となった感じを不穏なサインとして気づくべきであった。
しかしその時は自分がそれほどたいした要求をしているとも思っていなかったので、よりによって「ピクッ」となった店員の挙動をこちら側にフレンドリーなものであるかのように逆方向に解釈してしまい、「ピクッ」の間(ま)にかぶせるように、「その紙、子供にあげたらよろこぶんですよ」などと「いかにも関西地方にいそうな、店員になれなれしくしゃべるおっさん」風にしゃべってしまった。
それで会計という段になったのだが、私はまったく空気を読めていなかった。
スマホ決済を告げて機械が反応するのを待つあいだに、世間話のような気楽さでもって店員に「すいません、この紙もう一枚くれませんか?」と言ったのである。
店員は、もう我慢の限界だ、とあきれるように「これは本来商品をお包みした上で渡すようになっているものです。今後はご理解ください」と無表情に言い、引き出しから紙を一枚取り出してレジ台に置いた。私は私で今さら「そ、そんなもん、いらんわい!」とも言えず、(前の客とのやりとりによって生じた行列もあるしでこちらはこちらなりにいろいろ気をつかいもしたのだが、これだったら始めから何も言わずに瓶を3つとも店員に包んでもらっておけばよかった……)というような()内の言葉よりももう少し品のない感じの言葉を心に浮かべながら「すいません」とだけ発声し、レジ台に置かれた商品とワシャワシャした紙2枚をせわしなく手に取った。
私も武士である。このようなやり取りの後ではもうこのワシャワシャに家の敷居をまたがせるわけにはいかない。だからせっかくいただいたワシャワシャであるがその場でビリビリに破いてワシャワシャと丸めて店員の口に詰め……みたいな想像をしながら実のところは「荷物といっしょにリュックに入れたらワシャワシャが折れ曲がってしまうから大切に持っておこう」と大事に手に持って学校から帰ってきたヒカリさんに「この前の魔法の紙、またゲットしたよ!」とかなりほこらしげに渡した。