はてなダイアリー平民新聞

創業2002年か2003年、平民金子の元祖はてなダイアリー日記です。

ハンバーグができました

近所の公園で、虫の写真を撮ろうと思って植え込みにしゃがみこんでいたら、見知らぬ子供が「ニンジン!」と言いながらそばに寄ってきて、誰かが食べてそのままに捨て置いたお菓子の袋カスをぼくに手渡した。「あ…ありがとう…」と言ってまたファインダーをのぞいていると彼女は一応その場を立ち去ったのだがほどなくして今度は「ジュースはなんにしますか?」と、砂場からじっとこちらを見、問いかけてくる。「じゃ、グレープで…」というと、彼女は砂場に落ちていたペプシネックスの空ペットボトルを拾いそこに砂を詰めだした。「やっぱりオレンジにしよっかなあ」と言ってみると彼女は「シカタガナイデスネ」と言って、いま詰めたばかりの砂を地面に戻し、また同じ場所から砂を詰め、そしてタタタと持ってくる。「どうも…」と言いながらぼくは西日に照らされたハエの写真を撮っていた。彼女は公園で一人で遊んでいた。「…は、なんにしますか?」「んあ?」「バンゴハン!」「えー…グリーンカレーが食べたいな」「ハンバーグ?」「はい、ハンバーグで」「テーブルどこにします?」「あのへんに…」「ハーイ」そう言った彼女はしばらく大人しく、そして律儀に、砂場と「テーブル」を往復しては何やら作っていた。ぼくはハエをあきらめて今度はバッタの幼虫(?)みたいなやつの写真を撮っていた。西日で、葉の表面に美しく、触角の影がうつっている。ファイダーごしに見える、太陽によって透かされた葉脈が美しく、全ての神経を集中し体を前後に動かし撮影していると唐突に「がッ!できました!!!」と言ってさっきの彼女がぼくの所に駆けてきた、そのいきおいで、バッタが四角い世界の彼方へ跳んでいった。主のいなくなった葉っぱの先っぽが小さく振動するのを見ながら、ま、いいや、と思ってカメラの電源を切り、ぼくは「テーブル」に向かう。そして「おお、すごいな!」と真面目に感動してしまった。「ハンバーグができました!」と言って彼女が指差したのは、砂に盛られたたくさんのシロツメグサだった。そしてどこからか集めたお菓子の袋と木の枝と、枝の先にのせられたペットボトルのキャップ。木の枝はクリスマスの飾りつけで、石がポテト、袋がニンジン、その他は忘れた(…)。「い、いただいてもいいですか?」「ハーイ」ぼくは両手を合わせ、テーブルのすみに何本か並んだ小さな枝(ナイフとフォークらしい)を持って、砂からシロツメグサをほじくり出してはつまむという作業をくりかえした。おー、ものっすごいおいしいなあ!とか言ってると、遠くから名前を呼ぶ声がきこえ、やがて彼女のお母さんがむかえに来た。「おかあさん今日はおそくなっちゃうよ」ぼくが彼女のお母さんだと思ったのは、お母さんの友達(姉妹?)だった。とりあえずなんか物騒な時代であるし、ぼくはおっさんであるし、公園にはぼくと彼女の二人しかいなかったんで、なんか知らんおっさんが女の子に声かけたみたいに見られていたらどうしよう…とか思ってわりと、いやものすごく気まずかったんだけど、ま、いっか、と思ってなるべく堂々とふんぞりかえって「いや〜おなかいっぱいになったわ〜」と散らばったシロツメグサに手をあわせ、おおげさにおなかをさすりながら、遠ざかって行く彼女に手をふった。彼女が歩いている道の両側は、少し前まで一面にレンゲが咲いていた畑だ。女の子は一瞬ふりむき、ぼくの真似をしておなかをポンと叩くと、大きく手をふった。夕日の作った彼女の長い影が畑にゆれるのを見ながら、あ、皿洗いはおれの仕事なのか…と思って、ぼくはテーブルに戻った。
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