「ドイツ・この不思議な国」/観客との質疑応答」(月刊イメージフォーラム1983年7月号)
観客―先日、寺山さんが講演した日に上映された『ことの次第』(ヴィム・ヴェンダース監督:平民金子註・・・一応)という映画を見たんですけど、その映画の最後で、登場人物が「物語を語っちゃうと生命感がなくなる」というふうなこと言う場面があったんです。その台詞についてどのように思われますか。 寺山―現代人というのは、みんな物語をつくる病気に取り憑かれていると僕なんかは思うわけです。非常に断片的に投げ出されているニュースとか事件からも、みんなが勝手に自分なりの物語をつけて、その物語が完成したことによって安心する。つまり人間は物語の中に逃げこむ。だから映画の中にも劇場の中にも演劇の中にも文学の中にも。物語がいっぱい詰まっている。だけど、世界は本当は物語的に完結しているのではなくて、もっと投げ出された状態で非常に断片的に同時に存在している。それを無理矢理に物語として円環させようとするために、殺人事件が起こったり、嫉妬があったり、人間関係というものを深追いし過ぎたり、いろんな惨劇が起こったりするということなんじゃないか。 つまり物語に取り憑かれ始めるということは、ある意味で病気の始まりではないかと僕なんかも思います(場内より拍手)。それが、ヴェンダースが物語に失望してゆくということと必ずしも同じじゃないかもしれませんけど、僕はそういうふうに思っています。