はてなダイアリー平民新聞

創業2002年か2003年、平民金子の元祖はてなダイアリー日記です。

古書店をぷらぷらしていたら五十円セールをやっていたので高田宏「言葉の海へ」を購入。
これは明治時代に日本で最初の「近代国語辞書」を著した大槻文彦の伝記で、なかなかおもしろそおだ。
だまされて買う人もいるかもしれないので冒頭を引用してみる。

物をあらわすには自分を排除しなくてはならない。大槻文彦は頑固なくらいに、それに徹した。しかし、『言海』の紙背にはいつでも大槻文彦がいる。見出語の選択にも、語原の説明にも、語義の解釈にも、その文体にも、文彦が自分を抑えるほどに、大槻文彦が浮んでくる。『言海』には大槻文彦の全生涯が凝っている。

 いまの辞書づくりと違って、明治前期の辞書は、殆どが個人の手に成った。山田美妙の『日本大辞書』もそうである。これは美妙が『言海』に対抗して出した辞書で、口述筆記で急いでつくったせいもあろうが、美妙個人の色が生まに出ている辞書である。随所に勝手なおしゃべりが入るばかりか、「言海ナド○○ト解シタモノノ、コレモ心得ガタイ。思フニコレハ・・・・・・」といった『言海』批判まで入れている。それなりに面白いけれども、美妙の辞書では物はあらわれにくい。山田美妙という作家の感覚と好みが前に出てしまうからだ。
 大槻文彦の『言海』は、ひとりの人間が十七年、自分を顕すまい、物を顕そうとつとめながら、古今雅俗の語と格闘し、自国語の統一をめざしてつくり上げたものである。その裏に抑えがたく生れた個人の色であった。  

『言葉の海へ』ISBN:4002603415(ついでに『言海』はISBN:4480088547)