散歩中にふと思ったのだ。二十代が一番つらかったなと。
自分が二人いるのである。想像上のかくありたい自分と現実の畳の上で寝ているだけの自分。
それがいちいち火花を散らしやがって、いつも想像上のかくありたい自分が現実の自分をぶん殴りやがって、俺はずっとぼろぼろだ。毎日胸が痛み腹の底が痛みかきむしってもかきむしってもこびりついた焦りや苛立ちが取れやしない。
それが三十代になると悩みが少なくなる。想像上のかくありたい自分ってものの力が少しずつ、衰えてくるんだろう。どこか遠くから二十代の俺がそれをあきらめと呼んだ。
四十代になったらもう、あれだけ俺を苦しめたあいつはどこへ行ったんだって感じだ。
でも散歩中にふと思ったのは、そんな分析じゃない。
最悪に最悪な二十代を過ごしている表現欲だけを持て余した馬鹿に何か言いたくなったのである。
大丈夫、生きてさえいれば、あんたはたくましくなれる。
そんな事を呼びかけてみたくなったのである。
でもあんたは馬鹿だからこんな言葉は届かないんだ。知ってるぜ。