今日ふと、子供の頃の事を思い出した。夜に爪を切っていると、「それはよくない事だ」と注意されたのだ。「親の死に目に会えないぞ」と。自分は、子供ながらに、それはありがたいことだ、と思った。ひねくれていたわけでもなく、さっさと死んでしまいたい、というのでもない。長生きに対する希求は人一倍あるので、どんな手を使ってでも生きていたいのだが、それと矛盾する事なく、同じくらいの重要さでもって、「身近な人間よりも早く、さっさと死んでしまいたい」という思いがある。死に目など見たくはないわけだ。親であれ恋人であれ、親しい人間よりも早く死んでしまった方がラクだぜ。後に残された人間が悲しもうが嘆こうが知ったこっちゃない。こちとら死んでしまった以上、ゴミなんだから。気楽なもんだ、なんて。口笛でも吹いて。親しい人間の死に目に会うくらいなら、死者の側にいた方がラクだろう。だから、「それはありがたいもんだ」「それはありがたいもんだ」と思いながら、せっせと夜に、深く爪を切った。