厚揚げ焼いて、醤油かけて食ってると、死んだばあさん思いだすなあ。ばあさんの家の近所に豆腐屋があって、そこで買ってきた厚揚げを焼いて、醤油かけてよく食べさせてもらったんだった、子供の頃。僕も将来、子供とかじゃなくっても、友達でもなんでもいいんだけど、自分が死んだ後に思い出してもらったりするんかなあ。別にどうでもいいか。わからんわ。好きな女と、好きな飲み屋に行って、カウンターで特に何をしゃべるわけでもなく、酒を飲んでいる。それはとても、これ以上ないくらいに幸せな、日常の光景だ。でもそれで、僕らのすべてが満たされているかというと、どうなんだろうね。僕らはそれぞれが、それぞれにしかわからない乾きを抱えていて、それがどんな方法を使っても満たされない事も知っている。たぶん知っている。年をとるしかないのかな。酒を飲んで、どこまでも沈んでいきたい。そしていつか裏返って、空から酔っぱらった自分が落ちてくるんだ。やあ、元気か?なんて。