この前自分が二年前に書いた「アスパラ」(id:heimin:20090526:p1)という日記を読み返していたらそこでは日常の細かい事まで書かれていてなかなかおもしろかった。このあたりの時期ぼくはどうにも調子が悪く、朝から晩まで酒や煙草を浴びるように飲んでいる生活にも限界を感じ始めていて、たまに会う友人と馬鹿話をしているのが心の救いだった。でも、二年もたって今になればそのような「しんどかった事」はきれいさっぱり忘れている。ただ明瞭に覚えているのはあの頃、共同便所の窓からいつも見えたカニシャボテンの赤い花だ。狭い便所の中で煙草をふかし、用を足し終わってパンツをはく時に立ち上がる。その時に向かいのマンションのベランダに咲いたカニシャボテンの赤い花が、やあ、とでも言っているように、開いた窓から見えた。子供の頃から好きだったのは、目を閉じることだ。部屋でもどこでもつかの間、目を閉じる。そして再び目を開いた時に視界にまぶしく展開する世界が僕は好きだった。新しい場所に来たような気がする。その魔法は三十秒ほどしかもたないので、効果がなくなるとまた目を閉じる。世界がまぶしければまぶしいほど、新しい世界ももっとまぶしくなる。だから僕は何度でも目を閉じた。

赤い花。手についたブランコの鎖の錆びたにおい。案外いつまでもおぼえているそんな些細な事を、書いていこう。階段にあたる日差しを見て「なんだか今日は空を眺めたほうがいいぞ」と思ったこと。屋上に出て、西日に向かって目を閉じる。片耳の調子が悪くなったDENONのヘッドホン。ジョルジ・ベンの「Ive Brussel」歌が終わるまで、ずっと目を閉じている。ここがブラジルであってもおかしくないはずだ。でも、ここは東京やな、と思っている。歌声につつまれそうになる。今朝、雪が降った。すぐにやんでしまったけれど。ものすごく素晴らしい歌だ。ゆたんぽを抱きしめるとあたたかい。でもこれ、何を歌ってるんだろう。晩ご飯は何にしよう。深刻な政治の歌や、トイレに行ったが紙がない、とかいう歌だったらどうしよう。まあいいや。ジョルジ・ベンはきっと世界のすばらしさについて歌っているんだろう。西日がまぶしい。目を閉じる前に僕が見ていた町。目を閉じている間に、変化がおとずれていてもおかしくない。猫町のように、行きと返りで違う世界なのだ。そう思って、歌が終わり、目を開ける。子供の頃と同じように、目を開けた後の世界はまぶしく、そして新しい。でもこの魔法は三十秒しかもたないんだよ。大丈夫、知ってるよ、それでいい。シイタケを買いにスーパーへ。三分間目を閉じるとあらわれる新しい世界。ゆたんぽを抱きしめるとあたたかい。夕暮れ。僕は何度も目を閉じたりはしなかった。手についた錆びた鎖のにおい。カニシャボテンの赤い花。昨日作ったキンピラ。見たことのない海。西友。レジのリクさん。
目、あけたら、ケニア(四年前の日記)
http://d.hatena.ne.jp/heimin/20071124/p1