はてなダイアリー平民新聞

創業2002年か2003年、平民金子の元祖はてなダイアリー日記です。

ブラインド吾郎(フロム・テキサス)

この前の朝食時、目の前に置かれた食パンにバターをぬりながら「おい、草ナギ剛主演『山のあなた 徳一の恋』そして香取慎吾主演『座頭市 THE LAST』とくれば、次は木村拓哉主演『ヘレン・ケラー』だよなあ?というと、妻は「難しいことはわかりませんが…」と前置きしつつ「私が思うに、次は…」と手に持ったコーヒーカップをテーブルの上に置き「稲垣吾郎主演『ブラインド・レモン・ジェファースン物語』ではないでしょうか」と言いました。妻はいつものようにパンをちぎってコーヒーに二三度ひたすと落ち着いた声で「だってブラインド・レモンは盲目なのに車を運転していたとかレスラー業で小遣いを稼いでいたとか、暴れん坊の逸話には事欠かないじゃないですか…」妻はここで濡れたパンを口に運ぶと、その口角左側からコーヒーがひとすじ、つつつと流れます。それでもしばらく私の目をみつめながら黙々と咀嚼を続けるのですが、突然ノドの奥から【ククッ】と何かが器官にでも詰まったような音をたて、テーブルの端を両手でつかみ、叫びました「…車で人間をひき殺した稲垣メンバーにぴったりですわ!」なんと、そう言った妻の口から垂れている液体は、コーヒーではなく、確かに血でした。私はあわてて「いや、稲垣氏は車で殺してはおらんよ。あれはナイフだ」と訂正しました。「車というのはお前の誤解だ。あれは、ナイフで何度も何度も…」気が付くといつの間にか、四肢を広げ天井に蜘蛛のごとく張りついた妻は口にたまった血をペッペと天井から私に向かって吐きながら「そうでしたか(ペッ)。そうでしたか(ペッ)。そうでしたか(ペッ)」と開けたベランダの窓から外に出て、そのままススススス…と八階にある私達の部屋から急降下しました。その日は曇天で、時折雲間から姿をあらわす太陽の光が、妻がベランダの手すりに残した半透明の細糸を美しく照らします。その糸が風に揺れる様を、私は二杯目のコーヒーを飲みなが眺めていました。とにかく暑っ苦しくて、虚しい町なんだ。テキサスってやつは。