毎日毎日がものすごく退屈なときは、ものすごく退屈な人間にしか出来ないことをするといいと思う。たとえば長〜い小説。ドンキホーテやドストエフスキー、大菩薩峠…。映画やアニメ、なんだってあるだろう。無駄なことをするのもいい。ぼくのおすすめは、食糧だけ買いこんでおいて、あとは部屋の中で一人、目かくししたままで二、三日すごすことだ。タオルでもなんでもいい。目かくしして暗闇の中、手さぐりだけで三日間すごすなんて、今しか出来ないから、退屈すぎて自分を責めるくらいしかする事のない人にはとてもおすすめだ。自分の身のまわりの物や空気の質感、あたたかみを、手のひらの感触でとらえること。とても新鮮な気持ちになれると思う。次におすすめなのが、今ひじをついて考えこんでいる机、すわっている椅子、眠っている布団、枕、壁やふすまの穴、憂鬱のかたまりのような部屋の中、自分が日々触れているそんな物たちのひとつひとつを、写真に撮って形として残しておくことだ。「クソ…」とか「死んでしまえ…」とか、いつも自分にむかって投げかけている言葉を何も言わない物たちに投げかけながら、怨念でシャッターをきっていく。五年、あるいは十年。もっと時間はかかるかもしれないけれど、でもいつか、写真を撮った時の気持ちすら忘れてしまった頃に、そのむかし呪詛の言葉を投げかけた椅子や布団たちの古びた写真をもし、見返す機会があったなら、その時きみはとてもセンチメンタルで、やさしい気持ちになれると思う。それが退屈な人がいま感じている胸が痛くなるほどの退屈さの、効能なんだと思う。