はてなダイアリー平民新聞

創業2002年か2003年、平民金子の元祖はてなダイアリー日記です。

江ぐち

「この店、なくなったらやばいな…」というような食堂や酒場が、数はそんなに多くはないけれど、ぼくの中で何軒か存在する。例えばかつて東京の西荻窪にあったとんかつ屋『登亭』がそうだったし、高円寺にあったカレー屋『クロンボ』がそうだった。そして二つの店からさほど離れていない、JR三鷹駅近くにある中華そば『江ぐち』も「なくなったらぜったいにやばいぞ…」そんな店だった。「なくなったらやばい」という不安は「でもなんやかんやでこういうお店はなくならないんだよね…」という根拠のない安心感をベースにした感情だ。でもここ何年かで、そういう「なくなりそうでなくならない」お店や人間が本当に地図から消えていってる気がするので、少しさびしくなってくる。暖簾をくぐるまでは、最後だから派手なやつを…と思っていたのだけど、いざ暖簾をくぐり椅子に座るとそんな気もなくなって、いつもとかわらず「竹の子ラーメン」と注文する。500円。そして生まれてはじめて、泣きながらラーメンを食べる人を見た。隣に座っていたおばちゃんだ。ひととおり昔話、思い出話をしたあと「なんだか泣けてきちゃうねえ…」と言い声をつまらせる。とにかく常連さんから、ものすごく愛されていたお店だった。新聞なんかでも取り上げられて、最後の週末はドエラい行列が出来ていた。三鷹にこのような大行列が出来るのは、この「江ぐちの閉店事件」が最初で最後だと思う。このお店にはなんだか似合わない行列だな…、とは思うけれど、こういう光景も、江ぐち伝説の最後の最後をかざるものとして、何年かたちどこかの酒場で「そういえば江ぐちの最後、見た?ヤバかったね…(笑)」なんていう風に語り継がれていくのなら、それはそれでなんだか楽しいような気もする。ほんの時たましか行かない自分はいつも店のかたすみに座って、ビールのコップ片手に竹の子皿をつつきながら楽しそうにしゃべっている常連さんたちを見て、憧れていました。お店の方々と、江ぐちを愛するたくさんの常連さんたちによって支えられたあの場、空気に、ほんとうにありがとうございました、と言いたいです。今年の一月は浅川マキが死に、江ぐちが閉店した月になった。でも出来れば、江ぐちにはもう一度どこかで復活してほしいな、と思っています。江ぐち味のラーメンを、いつもありがとうございました。いただきます。

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