定刻通りに高速道路は落下する。新聞配達のバイク音。
洗い桶に沈んだコーヒーカップ。
遠くでカラスが鳴いている。
初めて会った彼女は左利きだった。
きみの読んだ本が、ぜんぶおれの記憶になればいい。
きみの読んだ本が、ぜんぶおれの記憶になればいい。
夢がいつまでもうつくしいのは、私たちがそれを捨ててしまったからでしょう。
今はもう廃墟になった、ぼくらの王国。
サンチョ・パンサからの電話。
「もしもし」
あの夏の日の記憶を、会ったばかりの彼女のせいに僕はした。すると
「ぶっ壊す勇気もないくせに」
目の前を歩く彼女がそう言って僕を振り返る。
「羊が革命を起こそうだなんてとてもおろかなことだわ」
その時ぼくは右手で、彼女の髪の毛にさわった気がする。
サンチョ・パンサからの電話。
「もしもし。だってさ、羊が革命を起こそうだなんてとてもおろかなことだわ」
ぼくらは何をやってもあの頃のぼくら自身に似てしまう。
ぼくは彼女が左手で煙草を吸うのを眺めていた。
ずっときみだけに会いたかったんだ。
ぼくは彼女を背中からだきしめ何度も名前を呼ぶ
「ぶっこわす勇気もないくせに」
きみはぼくの腕の中で振り返り、酒臭い息をふきかけて言った。
「私は永田洋子。あなたはどこからやって来たの?」
きみの汗くさいセックスと大切な失敗が、ぜんぶおれのものになればいいのに。