『ヱヴァンゲリヲン新劇場版:破』は私に、リビングで寝っ転がっている散歩帰りのレトリバーに気配をさとられぬようそっと顔を近づけていき嗅いだ六月の雨の日の、あの湿った肉球のにおいを想起させた。その日私は普段より少し贅沢にキュウリと茄子を4本づつ買って浅漬けを作り、それを友人に食べてもらったのだ。友人の名は広末涼子。涼子の腋の下はこの季節になるといつもハチミツのにおいがするから、私は梅雨を好む。浅漬けを作るときは基本的に、作るも何も浅漬けの素につけこむだけなのであるが、今回思ったのはやはり、漬け物というのはこーいう便利な調味料を使うよりいっそのこと何から何まで自分で作った方が美味いのではないだろうかという事だ(次回からちゃんと昆布や鷹の爪、塩醤油を使い時間をかけて手作りしようと思う)。『ヱヴァンゲリヲン新劇場版:破』において主人公江田島が試作機ヱヴァンゲリヲンに搭乗する際ポケットに忍ばせた愛人の陰毛のちぢれを見て宇宙の真理を悟り「ハッ。ガスの元栓閉めたっけ?」と呟くシーンが私にとってはとても印象的であった。なぜなら何を隠そうこの私も先日ガスの元栓ではないけれどコンロの火をつけたまま泥酔し寝てしまい気付けば朝、という事件があったからだ。普段カセットコンロを使ってるので(コンロのガスがなくることによって)自然と火が消えていたのが不幸中の幸いであった。そして出来上がった私のヱヴァンゲリヲンがこれである。
「こげましたね」と涼子は言った。お前にこがされるなら本望じゃないかと私は答えた。人生とは、そういった事の繰り返しなのかもしれない。「今晩は秋刀魚でも焼きましょうか」そう言って涼子は私の手を握る。「これが私たちのヱヴァンゲリヲン」「そうだね、これがヱヴァンゲリヲンだ」
「まるで夜みたい」
「夜が勃起してるみたい」
涼子…。
