はてなダイアリー平民新聞

創業2002年か2003年、平民金子の元祖はてなダイアリー日記です。

オオサカヤーヤー

たまに行く漫画喫茶のトイレにはこんな貼り紙がしてあって、これまではとくに気にもしてなかったのだけど、この前あきらかに「おまえちゃんと片づけて行けよなー」というような残り物(忘れ物?)が便所脇にあるのを見つけて、ああなんというか、この場所はこういう場所なんだな…とガッテンし、またひとつ大人の階段をのぼった気がした今日この頃、四月になりました。みなさんいかがお過ごしでしょうか。しっかりと、キメてらっしゃいますか?


もう十年以上前の話になるんだけど、三十代のある演歌歌手がいて、彼女は離婚して以来ひとりで娘さんを育ててきたのだけど、娘が中学を卒業し、さて高校生になろうかというちょうど今くらいの季節に、夜の街で一人のヤクザモノと知り合った。良いヤクザもいれば悪いヤクザもいる、というのはたぶん当然の話で、彼女の運が悪かったのは、知り合ったのが悪いほうのヤクザだったということだ。


知り合ってから数か月で男は母娘双方と関係を持ち、それだけならまだ救われたかもしれないのだけど、男は母親だけでなく、娘の性器にも覚醒剤をすりこみ始める。ぼくは三者ともに顔を知っている程度だったのだけど、それぞれの話を聞きながら「ああ(自分も含めて)人間ってどうしょうもないなー」というような退屈な感想しか当時は持てなかった。


娘は財布の中にいつも母親の写真入り名刺を入れていて、会う人会う人に「母をよろしくお願いします」と宣伝して歩くような女の子で(ぼくもいまだにその名刺を持っている)、覚醒剤性交にハマりだしてからもその献身的(?)な姿勢は変わりなかったんだけど(着る服と化粧は変わった)、あるとき娘は妊娠し、母親がおなかの子を(ということは娘も含めて)刺そうとする事件が起こる。そのとき男は母娘とともに(彼女らの住む)部屋にいて、コタツに寝ころびながらテレビを見ていたそうで、のちに男はぼくにむかって「あいつら二人ともラリっとんねん、アホや」と笑っていた。


大口をあけて笑う男の口内にズラっと並ぶ、ヤニによごれた総入れ歯を見ながらぼくは「あー…」としか思うことは出来ず「あん時の火事なぁ…あれはよう燃えた。燃えすぎた。でもな、あいつらのけ言うてものけへんねからしゃあない、燃やさなしゃあないやろ?正味の話、そういうこっちゃ。あいつらみんなラリっとんねん」という男のつぶやきを聞き流しながら、ぼくは店内にかかっていた有線のスイッチを切り、持っていたカセットテープをさしこんだ。その頃よく、酔っ払ったときに聴いていたのはザディコ。


「頭のおかしいやつらばっかりや。みんなラリっとる。おれもあほ。おまえもあほよ正味の話」ぼくは右手で男の水割りをかきまぜて、左手でボリュームをつまむ。店の扉が勢いよく開き「●●ちゃん、いたのー」と母娘が肩を組んでやってくる。店内は大音量。アコーディオンの音が血管に心地よい。「あいつは長くないわな…」というのは当時店の常連だったヨシ子ちゃんの弁。「みんなラリっとる」半年ほどたって久しぶりに姿を見せた男はひどくやつれ、左目を失っていた。「どうしたもこうしたもあらへん。どいつもこいつもラリっとる。ラリっとんねん」ほどなくして男は中部地方のある町で殺人事件を引き起こす。