先日、不思議なきっかけから、小学校時代の同級生Nと二十数年ぶりに再会することになった。Nとぼくは実家が近かったこともあってよくいっしょに帰ったり、たまにお互いの家を行き来したりしていた。その頃のぼくらはファミコンばっかりやっていたのだけど、Nから買ったばかりのスーパーゼビウスのゴールドカセットを自慢された事をよくおぼえている。ぼくは昔から人付き合いが悪かったし、小学校を出てからしばらく地元を離れていたので、あの頃の級友と会うことはもう二度とないだろうと思っていた。別にそう望んだ、というわけではなく、なんとなくそうなるだろう、と思っていたのだ。だから三十二歳になったNの姿を前にしてもどこか非現実的な居心地の悪さ(良さ?)を感じていた。そしてしばらくは昔の担任の話やあの頃ぼくらが夢中になっていたあれやこれやについてなつかしくしゃべっていたんだけど、話は自然と、もう一人の同級生であり、Nとぼくと三人でよくいっしょに帰った村中総一の話になった。今やから笑い話やけどな、と言ってぼくは、小学校五年生の時のある日の放課後、誰もいない学校の階段で、村中とキスした話をした。ぼくより二、三段前を上がっていた村中が急に振り返り「金子くん、ぼくのこと好きか?」と聞いてきたので、ぼくが「好きやで」と答えると、村中は階段を一段降りて来て「そしたら、こうせなあかんねんで」とぼくに顔を近づけた。村中には異様な引力があった。小学校の時から地元の中学生たちから写真をねだられるほどに美形だった村中は、中学生になるとモテまくったらしい。モテまくったというか、狂ったように「とっかえひっかえ女とやりまくった」のだ。あるとき、とNが言った。「朝学校に行ったらみんな騒がしかったから、なんやろう?と思って教室に入ると、村中の机だけが、机も椅子もぜんぶ、ロウソクの蝋で塗り固められててな…」どうせ女がらみの揉め事だろう、という風に皆思ったという。ただ、揉め事にしても気味が悪く、教室の一角を占めるその奇妙な光景はクラスを朝から一瞬にしてどんよりさせるに充分だった。その頃を境にして村中総一は【神さん】になる。動揺する教師たちが机を撤去しようとするのを頑なに拒否し平然と蝋まみれの椅子に座り続け蝋まみれの机にノートを広げた村中総一は、もしこの机を移動させれば『おまえら、先祖ごと、灰になるで』と笑って言った。そしてノートの中心に大きな円を描き、さらにその円の周辺に小さな円を八つ描くと『今からぜんぶ説明したるけど、そのまえに、ここには肝心の天狗がおらんなあ!』と言った。
「天狗っていうのは?」
とぼけたらあかんで。Nは苦々しくそう言い、煙草に火をつける。(続く)
