はてなダイアリー平民新聞

創業2002年か2003年、平民金子の元祖はてなダイアリー日記です。

働くオッサンの肖像


なあ、にいちゃん、昼間っからこんなとこで何してるんや?仕事は?そうか、休みか。え?おれはおまえ、あれやないか。仕事か?今さがしてるとこや。ん?おれか?いくつに見える?……どあほ。そんな若ないよ。昭和のヒトケタ。え?にいちゃん、あほか。自分の年まちがえるあほがどこにおる。俺は昭和三年うまれ。免許証見せたろか?見てみい、どあほ。……え?なんやて?写真?あほか。根性あるならやってみい。男前に撮らなおまえ、しょうちせんど。



公園のベンチで煙草を吸っていると、働くオッサンに声をかけられました。第一声は「にいちゃん、なあ、そやろ?」……何がそやろかはわからなかったのですが、ぼくは、そうかもしれないです、と答えました。するとオッチャンは「何やとワレ。何がそうかもしれんのじゃ?」と返してきます。ぼくは、オッチャン、昼間からワシにトンチしかけてるんですか?と答えます。



いつの間にかぼくらは並んでお酒をのみ始めます。にいちゃん、俺な、金はないけど、酒やったら、ほら、ここに、なんぼでも入っとる。と、自転車の前カゴを指さし、のぞいてみたらワンカップ大関が一本、二本、三本、四本……。ほら、なんぼでも飲め。にいちゃん、おもろいやっちゃ。俺らおまえ、こっち来る前はずっとな、上野の山におって。あ、山いうてもわからんか、にいちゃんには。お、わかっとるんか、おまえ。飲め。ええから飲め。



にいちゃん、なんや、そのカメラでメシ食うとんのか?違う?そらそうや。なんでも一人前にやろう思たら難しいもんや。俺らそれがようわかる。困難に向かって突き進まなあかん。なに?俺か?俺はおまえ、日本国中歩いたで。ダム、作っとったんや。



やるからには一番を目指さなあかん。一番や。わかるか?あ?ほんまにわかっとんのかいな。



俺らおまえ、戦争中はずっと、ほれ、コレよ。敬礼!おまえ、にいちゃんみたいな若いもんにわかるかいな。にいちゃんみたいに甘やかされて教育うけたもんには絶対わからへん。わかるはずがあらへん。俺はそれでもええと思っとる。ほら、にいちゃんも立て。敬礼!そや。もっと背筋のばせ。上官にどつかれんど。



まあ、年寄りの昔話や思てな。聞いてくれたらええ。



にいちゃん、今日はありがとう。しっかり出世せえよ。え?…俺?俺はおまえ、これから仕事さがしに行くんや。…何?年寄り馬鹿にすんな。誰が引退や。どあほ。ほなな、ま、にいちゃんも気いつけて。


「おっちゃんも気いつけや」
「おう、わかっとる!」


働くオッサンの肖像:おわり