はてなダイアリー平民新聞

創業2002年か2003年、平民金子の元祖はてなダイアリー日記です。

空が落ちてくる:2

むかし神戸の地震があった時に避難所で一人のバーサンと仲良くなった。婆ァは気のやさしー感じのヨレヨレした人で、ぼくが行くたびに「おにいちゃん、おなかすいてるやろ」と自分用に配られたパンをくれたり「さむいやろ」と白湯の入った水筒を持たしてくれたり、なんでか色々とよくしてくれたんだけど、ある時いつものように学校の教室(当時の避難所)で婆ァとしゃべっているところへ、新聞社のカメラマンがツカツカとやってきたかと思うと、何も言わずにぼくらの写真を撮りだした。正直なところぼくは不愉快だな、と感じるよりも前に、何故?何故?という不思議な驚きがあって、いっしゅんポカンと口をあけていたように思う。が、カメラマンの突然の来訪よりもぼくを驚かせたのが、目の前にいる婆ァのその後の豹変で、婆ァは、どこにそんな力が残っていたのだろうかと思うほどに、ヨレヨレした体をいきりたたせ、カメラマンに歩みより、胸倉をつかむと、大きくゆさぶった。そこにいる婆ァは普段ぼくの目の前にいるやさしい婆ァではない。鬼がいる、とぼくは思った。


「あんたは何をしたかわかっとぉか?わかっとぉか?わかっとぉか?」


カメラマンは一匹の気のふれた鬼に激しく体をゆさぶられながら「やめてください、やめてください……」というようなことを言っていた。咄嗟の出来事にポカンとしていたぼくはとりあえず鬼とカメラマンの間にわって入り二人を引き離し、鬼の方を向いたのだが、力の抜け落ちた鬼の姿からは、他人をよせつけないというか、他人であるぼくには決して踏み込んではいけないような、そんな痛々しさが感じられた。息荒く、ハァハァハァハァ言っている婆ァの姿を見ていると、ぼくはなんだか頭の中心にツトーンとつめたいものが流れ、そのままカメラマンの方に向き直り彼の目を見つめた。ここにもう一匹鬼がおる。ぼくは鬼の首をわしづかみにし教室の柱に突き飛ばしていた。俺も鬼。おまえも鬼。どこもかしこも鬼だらけや。
空が落ちてくる
ねえきみ、ここは、どこですか?(友部正人/空が落ちて来る)