せねばならん事があるのについついキーボードに手がのびる。ああ、これでは駄目だと思いパソコンの電源を落とす。すると、今度はチンコに手がのびる。チンコをおとなしくさせると、今度は煙草に手がのびる。そして、満足し寝てしまう。起きると腹が減っていた。部屋を出て揚げもの屋まで足をのばし、チキンカツを二枚。
「別れるということは、いくらか死ぬことである。愛するひとにたいして、死ぬことである」と教室の黒板に書いたのは詩人西條八十であるが、去年の今頃は女と別れて散々であったおれも、一年もたてば、そんな事はすっかり忘れて元気にやっている。たいていの事は時間がたてば忘れてしまうのである。すべてを忘れてしまうわけでは勿論ないのであるけれど、たいていの事は忘れてしまうのである。
女と別れた次の日の朝おれはものがなしい気持ちでマイ四畳半の写真を記念に撮った。それをいまこうやって見返してみても、当時の感慨はもうよみがえってこない。なぜ四畳半にパソコンが二台もあるのだろう。たしか、冷蔵庫も二台あったはずだ。
「この街には誰が住んでいるのですか?」
「ほんとうに忘れてしまうのですか?」
部屋を出て揚げもの屋まで足をのばし、チキンカツを二枚。
ここはおれの四畳半であり、あなたの四畳半である。
