愛知県警稲沢署は5日までに、「セーラー服にハチが止まっているよ」と女子高校生に声を掛け、胸を触ったとして、強制わいせつの疑いで、同県一宮市の会社経営の男(52)を逮捕した。
調べに対し、男は「2003年ごろからやっている」と供述。同署などは被害届を計3件受けており、余罪を追及する。周辺の女子中高生の間では「ハチ男が出る」と話題になっていたという。
調べでは、男は7月4日午前8時5分ごろ、稲沢市内で、通学途中の女子高校生(18)に声を掛け、胸を触った疑い。
何年か前、職場に行く途中のコンビニにもんのすごくかわいい高校生が働いていて、うぉ、かあいいなあ、などと感動しながら日々レジに並んでいたわけである。ある日いつものようにコッペパンとコーヒーを持って、彼女の待つ(いや、べつに待ってないだろうけど)レジに行ったわけだが、そこでおれは見てしまった。なんと、彼女の毛髪に、羽アリのような虫がとまっていたのだ。
そこで、あらあら、と思ったおれは、金を払い、釣り銭を受けとったあとに「ネエチャンあたまに虫とまってるで」と言って、パスンと払いのけてやった。彼女はその一瞬の出来事に、多少とまどった様子を見せたものの、足元に落ちた虫をみて、あ、ありがとうございます、と言った。おれは「どもども」と答え、別に他にやりとりする事もなく店を出た。
ところで、正直に言うならば、当然のごとくおれの気持ちは店内で彼女の髪の毛に止まる虫を発見した時点ですでに高揚していて、したがって当時のおれは、虫を発見する(起点)→【A:彼女がレジを打つ】→【B:金を払う】→【C:釣りをもらう】→虫を払いのける(終点)、このA→Cの十数秒の間にその高揚、興奮をしずめた上で、彼女に邪心を悟られないようにしつつ、しかし速やかに目前の危機(虫)から彼女を救い出さねばならないという、きわめて困難なミッションを課せられていたと言ってもよい。もちろん、発見した瞬間におれが件の虫に対し「名もなきおまえに心の底から感謝する」と心内にて手を合わせた事も付け加えておかねばなるまい。
さて、コッペパンの袋を開けさっそくかぶりついたおれは、バス停の時刻表を確かめながらさっそく先程の右手の感触を何度も反芻し、うぉ、彼女の髪の毛にさわれたおれはいま世界でいちばん幸せってゆうか、ハッキシ言ってこれはもう彼女と結婚したも同然で御座いますなあ、くらいの気分であった。そんな二人の新婚旅行先は伊香保温泉であり、そのとき伊香保は世界の中心。
……
あれから数年がたち、今ハチ男五十二歳逮捕のニュースを見ながら、なんだか心配になってきた事がひとつある。それはあの時、あのコンビニの中で、真実、あの羽アリ状の虫は実在し、そして彼女の毛髪にとまっていたのだろうか、という、極めて根本的な問題である。もしかするとあの虫はおれが生み出した幻ではなかろうか。
さて、そんな風に疑いはじめると、ニュースの向こう側で愚かしげに存在していたハチ男が突如境界を越え、うなりを上げコチラ側に侵入し、ブンブン、ブンブンとおれのまわりを旋回する、そのような不愉快な空想にもとらわれてしまいそうになる。いや、もしかすると、これは空想ではないのかもしれない。何故ならば先程から、おれの耳にはこのように、明瞭なる羽音が聴認されるからである。さて。
ブゥゥゥゥーーーーーーン。ブゥゥゥゥゥーーーーーー ン。