『くるあさごとに/くるくるしごと/くるまはぐるま/くるわばくるえ』*1
悲哀
先月から某引越シ屋に籍を置いているのだが、ここは朝の7時に事務所に集合すると、そのままトラックに乗って現場へ、それが終わると二現場目、それが終わると三現場目……と、結局事務所に帰り着くのは夜中の0時近くなったりする。平均的な拘束時間は15〜17時間くらいだ。
まあ仕事の拘束時間が長い事に関しては、世の中には寝ずに働いてる人間もいるわけだし、苦痛は苦痛であるのだけれど、特に思うことはない。ああ、長いなァ、なんて考えるだけだ。ただ、今の会社には不思議なルールがあって、そのルールに関してのみ、おれは「ハァ?」て思った。
歩いてはイケナイ
ヴィターリ・カネフスキーの映画に「動くな、死ね、甦れ!」とゆう作品があって、でもおれは「動くな・・・」よりも、随分昔のレンフィルム祭で、タイトルからしてあまり期待せずにみた「ぼくら、二十世紀の子供たち」てゆう作品の方が最高に素敵だと思うんだけど、まあそんなことはこの際どおでもよろしくて、話を戻すと、おれがいる会社の場合はさしずめ「歩くな、落とすな、走れ!」みたいなカンジだ。
まあ肉体労働のなんともアレな現場だから、普通の状態の時に「歩くな、走れ」と言われるのは、(その要求がたとえ理不尽であったとしても)おれはまだ理解できるんだけど、引越作業中、(大物家具をのぞいて)どれだけ荷物を持っている時にも「走れ!」と要求されるのは、どうにも納得がいかない。
たとえば先日の現場は、マンションの三階だった。
で、人夫は三名である。
すなわち、ドライバー・リーダー・おれ。
おい!
こおゆう状況の場合は、まずドライバーがトラックから荷物を降ろしていく。それをおれが階段をのぼって(エレベータは使えなかった)部屋の玄関まで運ぶ。それをリーダーが各部屋にふりわける、とゆう作業の流れになる。で、リーダーは荷物の梱包をといたりナンヤラカンヤラで、部屋からは出てこない。ドライバーは荷物の降ろしや梱包資材の片付けその他ナンヤラカンヤラで、トラックの半径5メートル圏内から動かない。
と、ここまで書くと、そろそろお気づきの方もおられるかと思う。
とゆうか、出来ることならばここを読んでおられる方よりも、現場にいたおれ以外の二人に気付いてほしいわけなのだが、よおするにこの場合、現場で走り続けているのは、おれ一人だけなのである。おい!(笑)。
ピンクパンサー
何日かたってふりかえってみたれば、なんだか馬鹿らしくて笑えてきたりもするんだけど、その時はホント、笑ってるバヤイではなかった。ドライバーはダンボールを三つも四つも重ねておれに渡し、おれはそれをかついで階段をかけあがる。開始から十五分ですでに、体中の水分がなくなったのではないかとゆうくらいの汗が流れてくる。ひたすらその作業を繰り返す。三階からはリーダーの叫び声、すなわち「テンポが遅い!!」とかなんとか。ドライバーはのんびりと作業用の毛布をたたんでいる。おれはただひたすらに階段をかけあがり、かけおりる。一時間くらいがたち、すでにフラフラのおれは、階段をおり、次の荷物を受けとるべく、トラックに辿りついた。
ドライバーは、ぎゅうぎゅうに書籍が詰まったLサイズダンボールを二つ、その上にピンクパンサーのぬいぐるみ(!)を置いて、おれに渡した。おれは半分意識がとんでるんだけど、半分無意識に、それを受け取る。何十キロあるんだか、わからないけれど、もうすでに、そおゆうことも気にする余裕はなく、上半身と腰、太もも、すべての筋肉を一億総動員して、おれがヨチヨチと階段をかけあがろうとした、まさに、その時である。ダンボールの上にのせられたピンクパンサーが、おれの目を見て、にっこりとほほえみかけたのだ。ダイジョウブ、マイ、フレンド。
ザッツ、オーライ、マ。
結果からいえば、おれはそのとき情けなくも、荷物を持ったまま膝から崩れ、階段の中途でしゃがみ込み、まったく動けなくなってしまった。なんてゆうやら、これまでも、まあそれなりにシンドイ仕事もやってはきたんだけど、ここまで全身がしびれ、動けなくなってしまったのは、まったくもって初めての経験であった。肉体的に、もう完全に敗北してしまったわけである。
階段でしゃがみ込んでるおれに、はじめに声をかけたのは、一緒に仕事をしていた二人ではなく、お客サン夫婦だった。ヨメのほうが「ダイジョウブデスカ?」といいながらオロオロし、軽い脱水症状(?)であろうとゆうことで、結果、作業はしばし中断された。おれはお客にもらったお茶を飲みながらマンションの駐車場に座り呆然としていた。「空の青さをみつめていると私に帰るところがあるような気がする」といったのは谷川俊太郎であるが、おれは曇り空をながめながら、とにかく今すぐにこの現場から逃げ出したい、そんな事ばかり考えていたのだ。
かえりみち
トラックに三人のりながら、ドライバーとリーダーが「今日の仕事はラクだったねえ。あ、このへんにいいソープがあるんダヨ」なんて話をしているのを、窓からの景色をみながら、おれはぼんやりと聞いていた。そりゃまあ、冷蔵庫も洗濯機もほとんどおれが運んだわけだから、おまえらはラクなハズだよ(笑)。
ちなみに日雇い労働者であるおれの時給は900円に満たない。
so what?
下流スパイラル
『ああ、そこにはたしかに俺もいる』*2