近所の銭湯に行くと、番台にはいつものオバハンが座っている。
おれは黙ったまま、千円札を差し出した。
千円札を受け取ると、オバハンもまた、黙ったままでいる。
「おい、お釣り渡せよ」
なんて思いながら、おれがその場に突っ立っていると、
そこへ、扉がガラガラと開き、次の客が入ってきた。
おばはんは新しく入ってきた若者の方を向くと、笑顔を浮かべ、
「本日は、料金はけっこうです」と言った。若者は、
「まずは、尻尾から洗います」と言って、そのまま脱衣所へと向かった。
そこで思ったのは、おれの場合だと、千円出してるにも関わらず
お釣りすら返してくれないのに、そしてしかもずっと無言でいるのに、
なぜこのオバハンときたら!おれのあとに入って来た客に対しては
激しい笑顔を浮かべ、入浴料すら取ろうとしないのか。ということだ。
その後もおれとオバハンはお互い黙ったまま視線を交わしあっていた。
そうこうするうちになんとなく、「今日はおれが千円札を出したから
悪いんだろうなあ。はじめに五百円玉を出せばよかったなあ」
てゆう気分になったので、「あ、そうか」と思い、
ポケットから五百円玉を出し、番台に置いた。
オバハンはクヒクヒ言って、五百円玉を受け取ると、
はじめておれに笑顔をうかべ、お釣りを百円くれた。
おれは「百円もらったなあ。そして来月あたり、この街いっぱいに
薔薇の花が咲くんだろうなあ」なんて思いながら、脱衣所へ向かった。