■ひとつ「いろはうた」
【い】異物吐き出す長雨の
【ろ】路地逆向きに鯉を埋め
【は】鳩にパン屑頂けば
【に】鰊会津に咲き狂う
【ほ】干草のような女に抱かれ
【へ】屁すらどうやらおれを見ぬ
【と】とすれば死ぬるより他になし
【ち】地の果てで踊れ骸骨
■■ふたつ「獏さん」
死んでしまった人たちに、と
杯を傾けたおれたちの
挟むテーブルの上には
おれたちの関係の死が
いつのまにか、器に盛られていて
おまえは箸で一つ一つ、丁寧に
遠い記憶をつまみ上げては
唇に放り込んで、笑っていた
おれはテーブルの上にひじを立て
捨てられた犬みたいに
おまえの動きを目で追って
夢だけでなく
おれを取り囲む世界の全てを
食いつくしてくれよ、獏さん、と思っていた
■■■みっつ「タバコ・ブルース」
男と女が自転車二人乗りして
マーシーのうたを歌っている
おまえに夢があるように
俺にもきっと夢はあるんだろう
公園のベンチで寝転んでいた
その日いやな夢を見た
タバコ・ブルース
図書館の二階で食堂の親父が
好きなカメラをいじりながら
最近は健康増進法とやらで客足がさっぱりでね
常連さんもすっかり足が遠のいちゃったよ
腹たったんで無視して灰皿置いたらこの前怒られちゃってさ
それを聞きながら俺は気まずくなっていた
俺もまた随分顔を見せなかったもので
タバコ・ブルース
俺が流れ着いたのは最果ての地
夜の列車に客は俺一人しかいなかった
俺は運転手に話かけたんだ、調子はどうだい?
あんたもさっぱりだろうが俺もさっぱりだ
すると運転手はポケットからタバコを取り出し、
俺に灰皿を渡してくれた
俺たちはタバコをふかし、夜をどこまでも走る
フリーダム・トレイン、黒い詩人
タバコ・ブルース
ああ、あんた達の吐き出す言葉一つ一つが
俺にはあんた達の言うタバコの煙のように絶えがたい
今日は気分が悪いんだ、向こうへ行きな
あんたの言葉は息苦しい、
正義がヤニみたいに染みついている、ヘイ、
タバコ・ブルース