(吉原に来る/金子註)客に対するサービスとしては、歩きタバコが許されていた。
火事防止のため江戸市中では歩きタバコは一切禁止だったが、吉原の中ではご自由にお吸いくださいというわけだ。
大門もいちいち開けたり閉めたりせず、朝一度開けたら夜の閉門時までは開け放たれていた。そして、誰でも自由に内部へ入れた。もちろん入場料金などない。だから金のない暇人は、あっちの見世、こっちの見世と、格子の外から遊女を見て楽しんだ。このような客を「素見」といって、遊女たちが一番イヤな人種である。
素見とは、文字通り、ただ見るだけという意味だ。「ひやかし」ともいう。この語源は、吉原近くの山谷というところに紙職人が大勢住んでいて、紙の原料を水の中に入れて冷やかしている間、吉原を見物に来て、遊女をからかっては帰っていったことから生まれた。
俗に「ひやかし千人、客百人、間夫が十人、色一人」といわれるほど、客となって遊ぶのはほんの一握りだったのである。それだけに、楼主は売上げを上げるため、様々な方法で遊女たちの尻を叩いたわけだ。
江戸三百年 吉原のしきたり/渡辺憲司[監修](ISBN:4413041003)よりp53〜