アパートの、俺の向かいの部屋、すなわち廊下を挟んですぐ正面に、住む男、仮
名・嵐山光三郎。嵐山の部屋には扉がない。
仕事に行く時、買物に行く時、風呂に行く時、俺が扉をあけると開放された嵐山
の部屋が視界に広がるのだが、どうゆうわけか嵐山はいついかなる時間帯にも部
屋の中にいて、全裸で座っている。
そしてその姿を見る俺が気まずさからなんとか目をそむけようと努力する、その
行為を嘲笑うかのように、嵐山はずっと俺を睨みつけている。
西友に、揚げ豆腐を買いに行きたいだけなのに、図書館に、本を返しに行きたい
だけなのに、なぜ俺は、でっぷりと太った全裸の嵐山光三郎に、かくも凝視され
ねばならぬのか。
なぜ俺は、嵐山のちんぽを横目に見ながら、毎日しんどい仕事に出かけねばなら
ぬのか。
ちなみに嵐山の隣に住む、仮名・渡辺兼人の部屋にもまた、扉がない。
しかし渡辺の場合は家賃を四ヶ月滞納した罰則として、大家による大人気ないい
やがらせで、ある朝、扉を力ずくでどこかへ持って行かれてしまった、その結果
である*1。
嵐山の場合は季節柄、おそらく自主的に扉をはずしたものと思われる。
*1:こおゆうかわいそうな事を実際にやってしまう大家はさすがにはじめて見た