マイルス・デイビス/アガルタ(AGHARTA) ライナー/熊谷美広
マイルスが『ビッチェズ・ブリュー』で試みたことで最も重要なのは、エレクトリック・サウンドの導入ではなくて、フォームの解体とリズムの解放だったとぼくは思う。テーマ→アドリブ→テーマというフォームから離れ、メロディやアドリブを自由に演奏するマイルスと、4ビートとか8ビートとかいったリズムの概念から離れ、ただただグルーブするリズム・セクション。それがジャズにまったく新しい生命を吹き込んだ。これこそが、マイルスが求めていた”フリー・ミュージック”なのだろう。いわゆる”フリー・ジャズ”とは違って、マイルス自身がいちばん自由になれるのが、このアプローチだったのである。そしてマイルスはこのアプローチをさらに推し進めていき(そして彼の音楽の原点でもあるアフロ/アメリカン・ミュージックの原点に戻るために)、そのサウンドはどんどん単純化、原始化していった。
〜(中略)〜
50〜60年代のマイルスが好きな人のなかには、このエレクトリック・サウンドと”リズムの嵐”に閉口する人もいることだろう。でも、そういう人たちにこの音楽を勧めようとは思わない。感じられる人だけが感じられればいい。そういう音楽なんだと思う。これはマイルスにとっても、そして聴き手にとっても、とても”私的”な音楽なのだ。