言葉自体が動く。動く言葉は何なのか。それを押さえないかぎり、物語なんか日本で書けない。あるいは、それと仲よくしないかぎり書けない。新しいことを書きたいと思うよ。ところがそれを知ってないと書けない。三島の苦悩はそこですよ。そことぶつかったんです。普通の作家が「文化防衛論」とか文学史を書こうとする衝動は何なんですか。僕も書きたいよ、文学史を。「国文学」の連載の「物語の系譜」も、たぶん文学史を書き直したいという衝動ですよ。ちょっと違うんじゃないか、というね。
ただ彼は一発で全部蹴飛ばしましたね。単純に言うと、三つぐらいのコードですよね。「天皇」と叫んだ、「不義」と叫んだ、あとは下手くそでも何でもいいですよ、言葉を書いた。檄文ですよ。檄文の中身はどうでもいいんですよ。言葉ですよ。そういう王手をかけた。王手をかけられたあとに、僕は生きてますよ。そうするとその王手を逃げるというか、破らないとだめです。僕は三島のあとに生まれた人間として、その王手を破ろうと、正々堂々と破ってやると、そう言ってるんだけどね。王手を破ることは、王手がどんな風に仕掛けられているかを知ることだと思うんだけど、みんな金縛りになってしまってるものね。
中上健次(四方田犬彦との対談)